第15章 永遠
夏の眩しい日差しが降り注ぐ庭に、子供たちの楽しそうにはしゃぐ声が響き渡る。
庭に出した小さなビニールプール。
その中には小さな女の子と男の子が1人づつ。
ジョウロや水鉄砲で楽しそうに遊んでいる。
オレはそれを縁側で、扇風機に当たりながら寝転がって見ている。
プールの横では、すずらんが洗濯したシーツを干している。
なんてのどかで平和な光景だろう。
忍として最前線にいた頃には、想像もできなかった景色が、今目の前にある。
干し終えたすずらんが、寝転がるオレの横に腰掛ける。
「お疲れ様」
声をかけると母親になっても変わらない、あの可愛い笑顔ですずらんが微笑む。
ああ、オレがすずらんを好きになった笑顔だ、と思うとすずらんに触れたくなった。
子供の手前、控えめに…。
そう考えて、いいことを思いつき、顔の横にあったすずらんの膝をツンツンとつつく。
「すずらん、耳そうじしてよ」
「いいよ」
すずらんが、奥の部屋から耳かきとティッシュを持ってきて、もう一度正座すると、オレの頭を柔らかい太ももの上にのせてくれる。
すずらんの細い指が、オレの髪を耳にかける。
すずらんの手は、いつだって温かくて、優しくオレに触れる。
そして、ちょうどよい力加減で耳掃除をしてくれる。
「あー!パパずるい!!
モモもママのお膝でネンネしたい!」
年長で5歳のモモが気付いて大声を上げる。
「あー、ママー、タンゴもー」
それを見た3歳のタンゴも声を上げる。
2人ともだが、弟のタンゴは特にママっ子だ。
オレにママをとられて悲壮な顔をしている。
「ダメー。今はパパの番。
君たちは遊んでなさい」
ベーと大人気なくあかんべすると、「えー、パパずるいー」と大ブーイングが起きる。
そんなやり取りを見て、すずらんがクスクス笑う。
「モモとタンゴはあとでね」
そうすずらんに言ってもらえてやっと、元の遊びに戻っていく。
片耳が終わり反対を向き、すずらんの腹に顔を埋める。
イッシン様の気持ちが今ならよくわかる。
柔らかでいい匂いの最愛の人の膝の上での耳そうじは、本当に癒される。
体に入っている余計な力がすべて抜けていく。
目を閉じて、すずらんの温もりと、かすかな息づかいだけを感じる。