第2章 拝啓、ロボットさんへ【イグゼキュター】
「さくら様、そちらは地下牢の方角です。私はあまり貴方に害なす輩と話すのはおすすめしません」
「うん。さっき聞いたしコピーアンドペーストみたい」
苦笑いをして再び後ろを向く。と、半歩近づいた所にその大きい体があって意外と距離が近いことに驚いた。
「ドクターのことは無視してもいいですから…ご自分のお仕事に戻って下さい…」
「これが今の私の仕事なのです」
「じゃあ一旦忘れましょう。それでは私はこの辺で」
「ではご一緒します」
「いいってヒヨコか君は!?」
こちらが投げた野球ボールがバスケットボールぐらいになって返って来た心境である。
まだ数分しか喋っていないにも関わらずデッキを10周した疲労感が体を襲う。
「ご、護衛とか必要ありませんから…」
「いえ。ドクターのご命令であるので私はそれを遂行するのみです。私はさくら様の環境を安全なものへ変える義務があります」
「…うん…"様"とかもそうだけど正直重い…」
再び小首を傾げてはさも自分が正しいことをしている、といった雰囲気を出し始めたイグゼキュターに溜息を吐く。
「"様"はやめてもらっていいですか…」
「では何とお呼びしましょう」
「普通にさくらでいいですから…」
「了解しました。では今後そういう風に呼びます。さくら」
彼と会話しているとまるでスマートフォンに内蔵されたAIと喋っている気分にさせられる。
いや、でも呼び方を変えろという命令に応じたのならきっと「それで、地下牢へはどのような用事で行かれるのでしょうか」…駄目なようだ。
「イグゼキュターさんには関係ないですし、もうついて来なくていいですから…」
「それはいけません。職務を放棄することになります。関係が無いとは思えませんが」
「うわああああハゲそう!」
ゲームで言うところの…ドクターから呪いをかけられた状態だ。…もしくは呪いがかかった装備を装着した状態…取り外しは不可能ときている。
ならば、と私はへの字に曲げた口でイグゼキュターを睨んだ。
「…わかりましたわかりました…私の降参で、って言うと思ったかっ!!」
そう吐き捨てた後、地面を思い切り蹴ってその場から逃げ出した。最近ドーベルマンさんのトレーニングのお陰で脚力はついて来ている。
私には圧倒的自信があったのだ。