第41章 進学
「それもそうだな。お前に熱心に話しかけてきたってことは何か理由がありそうだな」
「…どうして?」
「それは俺にも分からん」
ただ後ろに座っていたからだけじゃない。
目立つ頭だったから?
牛垣くんは成績優秀で真面目そうだけど髪色似合ってるって言ってくれたし、レッテルを張って目を付けられたようには感じなかった。
「なんにしろあの外見じゃ目立つだろ。男の俺でも惚れそうになるし、女目当てに近付いてくる男友達もいるだろう。人気者の立場ってのは俺には分からないけどな」
「クラスの皆に早速囲まれてたからね…」
「自分にしかできないような頼みごとをされれば助けてやれ。彼は祐次郎にとっていい見本になるかもしれないしな」
牛垣くんがいい見本?
彼は俺の足らない所をたくさん持っている。
溢れ出すような自信。
すでに自分を理解していて確立している振舞い方だった。
見本にして参考にする。
牛垣くんをみて良い影響をもらった。
もう少し明るくならなきゃとか、姿勢を正さなきゃとか、ちゃんと歩かなきゃとか、ハキハキ喋らなきゃとか。
自信はないけど見習いたい所はたくさんある。
「うん。俺もそう思う」
「目の前にあるいい目標だな。この時間だとすこし待ちそうだな」
「平日なのに混んでるんだね…」
「あーそうだ。明日の昼どうするつもりだ?コンビニで買って行くのか?」
「購買あるって聞いたよ。一階の…体育館近く?だったような」
「購買に何があるのか気になるな。お父さんの頃はな…」
たどたどしかった父との会話もだいぶ打ち解けている。
父はよく笑い、よく話す人だった。
子供の頃のイメージとは全然違った。
まったく喋らない人。
笑わない人。
外のベランダで煙草を吸う人。
目があっても眉間に皺が寄っていて、冷たい目をする人。
お母さんを頭ごなしに叱る人。
そんな恐くて近寄りがたいイメージだったけど、あの時は仕事で余裕がなかっただけで別人のように生まれ変わった父は、赤ん坊の俺を抱きかかえた写真の顔と同じように少し老けた顔で笑っていた。