第41章 進学
初日は午前中で終わり。
もっと牛垣くんやほかの子達と喋りたかったけど自分から輪に飛び込む勇気もなく、牛垣くんの周りには人盛りができる。
(やっぱすごいな…。今日は大人しく帰ろう)
帰宅道を歩きながらやり切った達成感が徐々に溢れ出す。
高校に行けた。
クラスメイトと話せた。
みんなの前で挨拶もできた。
(お父さんに報告しなきゃ…!)
父はオモテには出していなかったが心配した様子だった。
毎日とても気遣ってくれているように見えて、何だかそれが申し訳なく思ってしまう。
俺のせいで苦労を掛けているなら少しでも楽にしてあげたい。
早く独り立ちして恩返しして行きたい。
「あとは勉強だな…」
馴染めそうなクラスの雰囲気。
あの高校を選んでよかった。
妥協して他の高校を選ばなくてよかった。
けれど入学試験に合格したが学力の不安は拭えない。
特に英語。
スタートダッシュをしくじったのもあるし、苦手意識がどうしても付き纏ってしまう苦手教科。
「頑張るしかないよね…!」
前向きに前向きに。
これ以上、不安な顔をさせて父の心配事を増やしたくない。
家に着くと父は回転寿司に行こうと誘ってきた。
東京に来てから初めてのお寿司。
私服に着替えて、歩きながら向かっていると。
「高校馴染めそうか?」
「うん!俺の前に座ってた子なんだけど、ジブリのことすっごい話してくれて」
「前に座ってたって、もしかして演台で話してたあの子か?」
「よく分かったね。俺もビックリしちゃった。牛垣くんっていう子なんだけど生まれも育ちもトトロの森なんだって」
「トトロの森?ああ、えっと…あそこだよな。あそこ」
「東村山市ね」
「そうか。眉目秀麗・成績優秀・品行方正なのにジブリネタか。ふふ…何だか私が思っていたイメージとはまるで違うようだな」
「まあ…分かるかも。演題の時は別人みたいだったし。ほかの子達より大人びた感じはあるけど普通だよ?」
普通とはなにか?と思ったが、砕けて笑えば自分と同じ男子高校生。
彼は普通の男子高校生なのだ。