第40章 ~槍木祐次郎の場合~
学校に行こうと思っても行けなかった。
行くつもりで制服は着るけれど、また発作が起きるかもしれないと余計なことを考え、玄関前で立ち止まる。
今日も踏み込む気はなくて、キッチンテーブルで勉強道具を広げた。
「じゃあ父さん、仕事に行ってくるな」
「いってらっしゃい」
父は学校に行かない俺を一切責めなかった。
このまま行けなかったらどうしようという漠然とした不安。
窓の外もいい青空。
新しい制服を買ってもらって教科書も色々揃えたのに、全部台無しになってしまう。
「このまま大人になったら……」
無職、引きこもり、ニート。
世間のはみ出し者にはなりたくない。
まともに働いて、まず、育ててくれた父に恩返しをする。
父さんだって、いつまでも俺の面倒なんて見ていられないだろうし、いい大人にならなきゃ駄目だって分かってる。
「明日は学校に行こう。大丈夫。俺の知ってる人なんていない。みんないい人。大丈夫。これ以上、勉強置いていかれないためにも」
明日は学校へ行こう。
何度も頭の中で念じて、シミュレーションしたり、言葉に出して気合いを入れなおす。
「祐次郎。これ」
「?」
定時に帰ってきた父は、中学生向け通信教育のパンフレットを渡してきた。
学校に通わなくても勉強ができる。
自分にあった方法で遅れを取り戻すことができる。
高校進学も可能……。
ネットを繋げば家で安心して勉強することができ、不登校でも確かな実績がある、と書かれている。
「お前はなんでも抱え込んでしまうから焦っているんだろう?可能性のひとつとして考えてみてくれ」
「………うん」
可能性とひとつとして安心できる自宅での学習。
人間関係もそうだが、学力の不安やストレスも相当だった。
それに続く将来への不安なども重なり、父さんに頭を下げて通信教育をお願いしたのであった。