第40章 ~槍木祐次郎の場合~
「僕」から「俺」に変わったのは児相に入ったとき、年上の子たちがきっかけだった。
槍木祐次郎、13歳。
相思相愛だと思っていた人から突き離され、汚れた僕の姿を目にした母は精神的に病んでいった。
すべて「僕」がいたから始まったこと。
「どうしてアナタって子は」
母は髪を乱し、呼吸を荒くしながら床に伏せる僕を見下ろしている。
痛い。
痛い。
痛いよ母さん。
でも、母さんの方がもっと痛いんだ。
僕がこんな風に生まれてきてしまったから。
デキの悪い子供に育ってしまったから。
ピンポーン、
「槍木さん。いらっしゃいますかー?」
ピンポーン、
「槍木さーん。近所の方から通報がありましてー」
「──…!!!」
玄関扉の向こうからインターフォンを鳴らす男性の声。
母はとたんに乱した髪を整えはじめた。
なぜ、何度も鳴らすのか。
母は逃げ遅れた僕のからだを何度も揺すった。
視界に入った瞬間、血走った眼で跨ってきたから部外者を相手にする余裕なんてなかった。
締め切ったカーテン。
物が散らばった床のスペース。
何日も経った食べかけの食事。
見た目だけじゃない。
ニオイも同じくらいそれはもう酷い有様だった。