第36章 暗雲
俺の顔を確認するなり、パッと笑みを浮かべる赤司くん。
「あっ!やっぱり湊さんだ。お久しぶりっす!」
「誰?知り合い?」
「美容院のモデルやった人。湊さんと話したいことあるから今日はここまででいい?」
「うん。またね。ばいばーい」
軽く手を振る女の子に向かって赤司は笑顔で手を振り返し、そのままの顔で俺をみてきた。
「いいの?彼女…なんでしょ?」
「さっき撮影終わって駅まで送ってたところ。俺はいつでもフリー突き通してるんで生まれてこのかた彼女ゼロっす!」
「そ、そうなんだ…」
随分親しそうにみえたが仕事仲間で腕を組むだろうか。
いまどきの子って分からない。
「別に隠してるわけじゃないから言うけどああいう女の子って股ゆるゆるでさ。湊さん腹減りません?俺動いた後だから腹も減っちゃって……ってかもう食べちゃった系?」
つまり彼女はアレか。
赤司くんから何となくそういう匂いが漂った感じは否めないが、撮影後に一発抜いて、彼女を駅まで送ったという経緯。
サラリーマンが働いている昼間っからよくもまあお盛んだこと。
「俺みたいなの軽蔑する?」
「ま、まあ…」
「へえー意外。そういうことハッキリ言えるっていう意味で。俺、湊さんのこと好きだったけど嫌われちゃったかぁ」
「い、いや…。君は不貞操だけど気さくで明るくて根はいい子なんだと思う」
お世辞を言うつもりはなくて、思ったことを口にすると赤司くんはキョトンした表情を浮かべた。
「確かに俺は人と話すのが楽しいからどんな時でも大抵は明るく振舞える。でも、根はあんまり褒められたモンじゃない」
「それ、自分で言っちゃう?」
「自分のことは自分が一番分かってるさ。俺って性格こじらせてはいないけど歪んでんだよね」
そう言って赤司くんは少しだけ虚しそうに笑った。