
第14章 時を越えて〜分岐〜幸村ver.前編
信玄と織田軍が帰城の途に就いて数日。舞は言いつけを守り、城内で大人しく過ごしていた。大人しくと言っても、そこは舞。城内の掃除をしたり、厨で食事作りを手伝ったりと、女中さながらに動き回っている。
義元「舞は本当に良く働くなあ。」
佐助「はい。家臣の方々も感心していらっしゃいました。」
義元「不安もあるだろうに…健気だね。」
佐助「そうですね。無理してないと良いけど。」
幸村「…あいつ…くそっ!」
義元「幸村?」
佐助「幸村!どこ行くの?」
義元「…舞のところかな。」
佐助「…(幸村、頑張れ)」
ドタドターーダダダッーー
(どこに居んだ?)
幸村は広間を出て城内を探し回る。舞は舞の部屋にも厨にもいなかった。
(いったん戻るか。)
政務を終わらせた頃には見つかるだろうかと、自室へと歩き出したその時
(いた!)
二の丸へと続く廊下の縁側に舞は座り、ボーッと空を見上げていた。ホッと息を吐き、舞の方へと歩を進める。
幸村が声を掛けようとしたその時
「早く帰りたいなぁ…」
小さな声で舞が呟いた。
「ーーーっ!!」
ガタッ
驚いた幸村の手が近くにある部屋の襖に当たり、音が鳴る。
それに気付き、振り向いた舞。
「幸村?」
自分の姿を認め、キョトンとしてこちらを見ている。
「おー」
そう一言返し、舞の隣に座った。
「部屋に戻る途中?」
そう尋ねて来る舞に
「おー」
と、また一言だけ答えると
「ふふっ、幸村の返事はいつも『おー』だね。」
と言って舞が笑う。その笑顔が曇っているように見えた。
「…帰りたいのか?」
「えっ?」
「安土に帰りたいのか?」
幸村が聞くと、『ああ!』と呟いたあと、舞が話出した。
「ここにいるのが嫌とかじゃないの。ただ、安土に帰って針子仕事をしたくて。」
「針子仕事?」
「うん。…光秀さんにね、羽織を作りたいの。」
「光秀に?」
「私を娘として迎えてくれたお礼に渡したいと思って…」
「……それは、安土じゃないと作れねーのか?」
「えっ?ううん。そんなことないけど、ここには道具がないから。」
「用意する。」
「えっ?」
「道具を用意するから、ここで作れ。」
「そんな!そこまで迷惑はかけられないからいいよ!」
「…迷惑じゃねえ!お前はどうしていつもそうやって我慢すんだ!」
気を遣い遠慮する舞にイラついた幸村の口調が強くなった。
