第13章 夏の終わり
黙々と切っていた大量の玉ねぎが、残り3個になったところで、
「おぉー、すげーなぁ。」
遠くの後ろの方から、黒尾くんの声がした。
いや、黒尾くんだけじゃない。
みんなも続々とやってくる。
ちょうど今、体育館の入口には背を向けた状態だからわからないけど。みんなの声が段々と騒がしくなってきた、
「すげー! うまそー! 」
私達が準備してる野菜や鉄板をウロウロと見に来た、1人の男の子。
梟谷の短パンだ。
えーと、誰だっけ。
たしか、
『木葉くん...?』
「お、音駒のマネージャー。」
『あ。そうです! 倉尾ですっ。』
「...って、目ぇ大丈夫かよ? 」
『ふふ、玉ねぎにやられちゃって...』
「オレ代わろーか? 」
『ううん! あと少しだし大丈夫! ありがと! 』
「そーかぁ? 」
『うん! 練習お疲れなんだし、準備終わるまでゆっくり休んでて! 』
「おー、サンキューな! 」
そんな会話をしたら、またふらっといなくなってしまった。
その背中を見送ると直ぐに、
「おつかれ、倉尾。」
玉ねぎを切ってる後ろから声をかけられる。
黒尾くんだ。
『おつかれ、黒尾くん。』
「...お疲れさま。」
後ろを振り向くと、
「なっ、ハ? 」
変な声を上げて、普段少し目つきが悪い目を見開いた。
「どっ、どーした!? 」
『えっ、なっ、何!? 』
急に肩を掴まれて。
え?
私はパニックだけど、黒尾くんも驚いてる。
何?
なんか顔にでもついてる?
「なんでそんなに泣いて...」
『え? 』
「...あ、」
そこまで黒尾くんは言ったところで、私が玉ねぎを扱っていたことに気がついたらしい。
「...舞衣ちゃんが泣いてるの、多分、玉ねぎ。」
ちょうどこのタイミングでお皿を持ってきてくれた清ちゃんが、説明してくれた。
『あっ、そう、今玉ねぎ切ってたから...』
私の言葉に、いつもの顔に戻る。
「な、んだ...あ、わりぃ。」
パッと、肩に置かれてた大きな手を離される。
『あっ、うん、』
「準備ありがとな。」
『え、ううん、全然。』
「あ、夜久ー、」
黒尾くんは、遠くに見つけたやっくんのもとへスっと行ってしまった。