第6章 夏合宿やるってよ
そこからは、毎日またインターハイ予選の前と変わらずに練習。
だけど。
「声出せよー」
「レシーブ! ボールよく見ろ! 」
「1本ナイッサー! 」
いつもどおりの体育館。
いつもどおりの練習メニュー。
いつもどおりのボールの音。
いつもどおりの掛け声。
だけど。なんだか。
“入って”ない。
手を抜いて見えるとか、そういうのは微塵もない。
だけど。
練習試合も。インターハイ予選も。
出せる最大限で、戦ってきた。
それでも、敵わなかった。
永遠に続くかのようにも思えた試合。
3年生は、最後のインターハイ予選。
こんなにあっけなく、終わってしまった。
負けた後に残る、“あの時もう少し頑張ってたら”の色がとても強いことを、私は少なからず知っている。
あの時もっと練習に力を入れていたら。
あの時もっと冷静になれてたら。
あと一瞬、速く反応できていたら。
あと1歩、足が前に出ていたら。
辛い練習を乗り越えたことも、
毎日遅くまで自主練をしていたことも、
力の限り走って跳んだことも。
全部全部事実なのに。
敗北は、“あの時もう少し”の考えは、その事実を時に塗り潰す。
すぐに立ち直れる方が珍しい。
そういえば、音駒が負けるところを、私はインターハイ予選で初めて見たんだ。
今まで見た練習試合は、全部全部勝っていたから。
『次、スパイク練習うつってくださーい! 』
私まで、後悔と敗北に囚われてはいけない。
わかってる。
わかってるんだけど。
「おい芝山ぁー、今日声出てねーぞー。」
「は、はい! スンマセン! 」
「犬岡は、レシーブん時もっと腰落とせ。」
「ハイっス!! 」
今日も主将として、部員1人1人に声をかける黒尾くん。
その顔が、時折、やけに寂しそうな悔しそうな顔になる。
誰も、研磨くんすら見ていない時に。
その顔がどうしても、私を後悔の渦に誘う。
私、本当に全力でやれてた?
みんなのお荷物じゃなかった?
こんな時期に入って、ど素人の癖に。
そんなこと、思っちゃ、いけない。