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【アクナイ】滑稽な慈悲

第6章 秘めたる力



異世界人はとても弱いという。
彼女の目から見ればこの世界の人々は異常なほどの身体能力を持っている。自分なんか屈服されてもおかしくないはずなのにと。

ドーベルマンはドクターに報告を行った。するとドクターはフードの上から頭を掻き、仮定を話した。


「異世界者という弱者が空間を越えこの世界に来たのなら、生物であるなら順応というプロセスを踏んでこの世界で生き延びるために進化しているのではないか」


とても納得できる言葉だった。
異世界者が人間とはいえ、同じ成長速度というわけではない。全く別の生物として扱った方が良いとドクターは言った。

8日目の剣術訓練では、初めて人を殺すためだけに作られた得物を手に取ったさくらは恐れ慄いた。それを人に向ける怖さに支配されてしまったのだ。その日は震えた手を止めることだけに日を消費してしまい、ろくな訓練は出来なかった。他の訓練生オペレーターも同様にナイフを握れないという風に地面に落としてしまった。

9日目は昨日の反省として全員デッキ50周をさせられた。ドーベルマンはいつの間にかさくらに周回遅れが無くなっていることに驚いて目を見開く。やはり普通の人間ではないと。
その後の2度目の剣術訓練で、昨日同様に本物のナイフに手が震えるまま、振り方の練習を行った。

10日目は模型を相手にナイフで斬りかかる訓練だ。その訓練では、シリコン素材でできたマネキンが棒立ちしているところに斬りかかるというものだ。
とはいえ、実戦に見せるためにマネキンには人のホログラムが被せてあり、見た目は通常の兵士の恰好をしている。訓練オペレーターたちは、それが嘘の産物だと知っていても恐れて逃げ出すものがいた。
だが、ドーベルマンと他の教官がそれを阻止し、できなかった、もしくは逃げ出したものはデッキ10週の後また相手の前に立たされることとなった。

それが何回も行われて、精神面でオペレーターたちがバタバタと倒れ始める頃、できないままでは終われないと斬りかかるさくらが得物を両手で握った。


「…あの子はマネキンに親でも殺されたんですか?」


教官の一人が苦笑いで呟いた。

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