第4章 わっしょい
そんな時、隣を歩いていた杏寿郎がふいにスタスタと前に歩み出て、片膝をついてしゃがみ込んだ。
脚絆の紐でも解けてしまったのだろうか、と咲が不思議に思っていると、チラリと顔だけをこちらに向けて杏寿郎が言った。
「さぁ、乗りたまえ」
ホラ、と自身の大きな背中を顎で指す。
「え」
咲は一瞬何を言われているのかと思ってキョトンとしたが、すぐに「背中に乗れ」と言われていることに気がついて、慌てて首を振った。
「自分で歩きます!」
いくら杏寿郎が優しいからといって、こんな序盤も序盤で甘える訳にはいかないと思ったのだ。
だが杏寿郎は姿勢を変えず、
「ん」
と、何故かむしろワクワクしているような表情をして背中に乗るよう勧めてくる。
何度目かの「ん」の後、ついに根負けした咲は、小さくため息をついて観念した。
どうも杏寿郎のこの表情には勝てない。
「お願いします……」
そう言ってそっと杏寿郎の首に腕を回し、背中に体重を預けると、ガッシリとした腕が咲の体を抱え上げ、すっくと立ち上がったのだった。