第117章 有馬にて
奥まった離れの部屋とはいえ、旅先の宿で乱れた声を上げることが恥ずかしくて、抑えようと唇を噛むけれど…
「朱里、きつく噛むな。傷が付く」
信長は、固く噛み締めた朱里の唇に優しく宥めるように自身の唇を触れさせる。舌先でつーっと唇の上をなぞられると、擽ったくて堪らず少し開いてしまった。
「んっ…でも、声、出ちゃっ…」
「声など聞かれても構わん。貴様の身に万に一つでも傷が付くことこそ許されん」
「えぇっ…ふ、ふふ…」
行為の最中だというのに、急に真面目な顔になり、そう言い切る信長が可笑しくて笑いが溢れる。
「……貴様、余裕だな」
「えっ、そ、そんなこと…っ、あぁっ…」
いきなり深く突かれたかと思うと、そのまま続けざまに何度も揺さぶられる。
繋がった部分からはぐちゅぐちゅっと湿った水音が上がり、溢れた蜜がとろりと溢れ落ちた。
「やっ、待って…ぁっ…」
激しい抽挿に堪えられず、言葉にならぬ声が漏れるばかりで余裕など何一つなかったが、対する信長はといえば、口元に微かに笑みすら浮かべた涼しい顔に見える。
(信長様こそ余裕たっぷりで…私ばっかり乱されて…恥ずかしい)
湯殿を出て部屋へ戻ると、寝支度を整える間もなく信長に組み敷かれた。
二人きりでの湯治の旅ということもあって、夜はやはり甘い予感も抱いてはいたけれど、この旅では何より信長を身も心も癒すのが最大の目的だと思っている。
(私が信長様を気持ち良くさせなくちゃいけないのに、してもらってばかりじゃ…)
「信長さまっ…待って…今宵は…」
「んー?」
傷に触れぬよう用心して胸元を軽く押し返すが、信長は気にした様子もなく、更に深く身体を重ねてくる。
「っ…お怪我に障ります…から」
「何を今更…怪我などもう…」
「そ、それでも今宵は…私が、その…致しますので…信長様はそのままで…」
「…………」
朱里の予想外の言葉に、思わず動きが止まる。
旅先という非日常の場での二人だけの時間、存分に甘やかして蕩けさせてやろうと思っていた。
本音を言えば静養など口実で、湯治を理由に数日は滞在し、昼に夜に思うまま朱里を愛でるつもりだった。
(怪我の心配など、もはや必要ないのだが……)