第110章 魔王の霍乱
珍しく信長が熱を出したことには驚き、心配もしたが、さすがは鍛えられた肉体と強靭な精神を持つ武将と言うべきだろうか、家康の調合した超苦い薬を飲み、政宗の拵えた絶品の玉子粥を食し、日頃の寝不足を取り戻すが如くたっぷりの睡眠を取った信長は瞬く間に回復した。
「熱、下がったみたいでよかったです。でも…本当にもう起きられるんですか?日頃の溜まった疲れが出たんだろうって家康も言ってましたし、今少しだけでも寝ていらしては?」
固く絞った手拭いで信長の背中を清拭しながら、朱里は気遣わしげに信長の顔を覗き込んで言う。
一日寝て熱が下がると、信長は朱里が止めるのも聞かず、すぐに起き出したのだった。
「もう充分休んだ。熱もないのに寝ているわけにはいかぬだろう」
「そんなこと仰って…無理してまた熱がぶり返したらどうするんですか?」
「ふっ…そうなれば、また貴様が付きっきりで看病してくれるのだろう?」
「うっ…もぅ信長様ったら…あ、やっ…」
背中からお腹の方へと回していた手がやんわりと絡め取られ、爪先へ甘く口付けが落ちる。ちゅっ…という微かな水音とともにしっとりとした唇に爪先を柔く喰まれてしまい、羞恥に頬がかっと熱を帯びた。
「やっ…ダメっ…離して、信長様…っ、まだ途中なんですから…」
「ん?あぁ、前の方がまだだったな。ほら、早くしろ」
信長は楽しそうにくくっ…と笑いながら、口元から離した朱里の手を自身の腹の方へと滑らせる。
「っ、あっ…」
少しの無駄も弛みもなく引き締まった固い腹筋に触れて、信長の男らしさを感じてしまう。背中越しで直に見えないせいか、指先の感触だけがやけに生々しく感じてしまい、胸の鼓動が忙しなくなる。
「じゃ、じゃあ拭きますね…」
汗をかいた身体を清めるという本来の目的を思い返して再び手拭いを握った朱里の決意を打ち砕くように、信長は再び朱里の手を易々と絡め取って胡座を掻いた己の足の中心へと導くと、余裕たっぷりに命じるのだった。
「ココも忘れずに清めてくれるのだろうな?」