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夢過ぎる水溜りボンド

第3章 episode3


「あの…ここでネタ合わせしてもいい?」

いつものように、隅でメモを取っていると
とあるコンビに話しかけられた。
なんでも、いつも本番は緊張してしまい、うまくいかないから
日頃から人を前に練習したい。とのこと。
隅に一人でいる、置物のような私はその練習方法の初級としては
丁度良かったのだろう。

私はそれを承諾した。
そもそも見学させてもらっている身分で断れるはずもなかったが…

このコンビのスタイルは漫才。

2人で少し打ち合わせをした後、ネタを丸々一本、私を目の前に行った。

私は目を合わせないように、でも真剣に彼らのネタを見た。
そして、後で清書しよ…と考えながら
ノートへ視線を落とすことなく、ネタ中感じるところを
全て走り書きにメモを取った。


「「ありがとうございました~!」」

ネタが終わる。
「見る・聞く・書き留める」の集中の糸が一気に切れ
さっきまで聞こえなかった周りの音が、耳に押し寄せる。
私は気が付くとペンを置き、拍手していた。

「ありがとうね。ちなみにどうだった?…なんかあった?」

ひとりが私に質問した。
そんなこと聞かれると思っていなかった。
置物に感想を求めないで…
と思ったものの、一生懸命のものに
なにも感じない人間なんかいない。
現に私はこれだけのメモを書いていたんだから…
伝えないことは失礼だ!と数秒間で脳内会議が決着した。

『失礼な言い方があったらすみません…』

先に謝り、私は取ったメモを見ながら
思ったこと感じたことを伝えた。

初めは椅子に座った私を見下ろすように立って話を聞いていた2人。
気が付くと私の前に椅子を置き、私と同じ目線で話を聞いてくれていた。

次の練習日も、その次の練習日も彼らは私にネタを見せてくれた。
そして私からの言葉を真摯に受け止めてくれた。

次のお笑いライブで彼らは
コンビを組んで初のMVPを獲得した。

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