第3章 episode3
兄はサークルの人たちに、私を見学させてくれるよう
前々からお願いしていたらしい。
皆明るくて元気で…楽しそう。キラキラしてる。
それに比べて自分は。。
そう考えるととても暗い気持ちになる。
こんなところ来たくなかった。
兄はすぐに皆の輪に入って行った。
残された私は、部屋の隅でただボーっと見ていた。
兄なりに考えてくれたのだろう。
私のリハビリとして。
家事と勉強。これだけで構わないと思っていた。
でも、兄は違うかったらしい。
お笑いの練習として
壁に向かってネタ合わせをするのが
ベターなやり方らしく、コント以外の人は
壁際に等間隔に場所を取り練習していた。
私が四隅のうちの一つをとってしまっていることで
迷惑をかけていたなんて、この時は思いもしなかった。
「うわぁ。。あれ本当にPさんの妹?貞子じゃんw」
複数が同時に練習をしているというのに何故が自分へ向けられた
悪意に対しては過敏に反応してしまう。
貞子か…
確かに否定はできない。
全身真っ黒の服に長い前髪。俯き、声も発しない。
後から聞いた話、逆にめちゃくちゃ目立っていたらしい。。
そんなことに気付きもしない私は
暫く兄の練習日にはサークルへお邪魔し
隅に陣取り、兄の帰ろうの声がかかるまで待つ。
不思議な生活を続けていた。
すると次第に慣れてきたのか
私に対する言葉も聞こえてこなくなった。
兄に特段なにか言われた訳ではなかったが
あの日のライブのように、自分の周りで繰り広げられるネタの練習について
あれこれメモを取るようになった。
最初はスマホでメモしていたが、複数組が同時に練習しているため
考えをまとめ切れなくなり、ノートにメモを取るようになった。
家へ帰ってからも思い出しては書き足したり手を加えていた。
暇つぶしと趣味の間のような感覚でいた。
あの時は、これを誰かに見せる気もなかった。