第7章 匂いに酔う【竈門 炭治郎】
自分より少し体温の低い柔らかな体が、震えて次第に熱くなっていく
炭治郎の寝間着の肩が濡れるから、美桜がまだ泣いているのが分かった
「ちゃんと美桜の元に帰ってくる」と伝えたいが、幼い頃から産屋敷と入れ替わっていく柱達を見ている美桜には気休めにしかならないのかもしれない
それでも自分があの日、必死で強くなり生きて行く為に心に燃やした決意を美桜に伝えたい
「禰豆子を人間に戻す為…人々の悲しみの連鎖をたち切る為に僕は刃を振るい、鬼舞辻 無惨を倒す…そして鬼のいない世界になった後で」
背中に回した手で美桜の体を優しくなでる
「……僕の帰る場所は美桜さんの所だよ」
「……分かってる。鬼殺隊がどんな所で、何を相手に戦っているのか。幼い頃から産屋敷家に輝哉様の近くにいたし、今朝も沢山の隊士達のお墓も掃除してきたから」
美桜は炭治郎の体から離れて、涙でキラキラと輝いて見える瞳で炭治郎を見つめた
「絶対に死なない保証なんてない……でも…炭治郎くん…最後の瞬間まで…私の所に帰る事をあきらめないで欲しい…それだけ約束して……」
そうか…美桜さんも鬼殺隊の一員みたいな人だった
儚げでいて芯は強い人なのだ
耐えきれずポロリとこぼれた涙を、炭治郎は唇で吸いとると頬に口付けをして
「約束する、最後の瞬間まで美桜さんの所に帰る為に心を燃やし戦う。どんな姿になっても必ず……これは約束の口付けです」
真っ赤な顔をして言った。
美桜は赤い顔の炭治郎を見て笑い
「違うよ、約束の口付けはこっち」
炭治郎の頬を両手で包み顔を近づけ唇を合わせた。離れる瞬間にペロリと炭治郎の唇を舐め顔を離す
美桜の甘い匂いと柔らかな体に酔っていた炭治郎の心はパンクしてしまい、美桜の胸に顔を埋めて絞り出すような声をあげる
「大人の美桜さんはズルい…僕は心臓が爆発しそうだよ」
美桜はそんな炭治郎の頭を撫でて笑っていたが、炭治郎には美桜の鼓動も忙しく動いているのを感じた
あぁ…美桜さんも僕と同じだ…
そのまま柔らかくて甘い美桜に包まれて同じベッドに横になり二人で眠ってしまった