第7章 匂いに酔う【竈門 炭治郎】
ふわりと石鹸の香りに包まれ、少し湿った髪は丁寧に拭っている。
左胸に顔を寄せてくるから、いつもと同じで美桜は左腕で抱き寄せ少し癖のある髪を指に絡めた。
彼女の柔らかい体に寄り添い深く呼吸をすれば、甘い香りと薬草の香りがして、その度に炭治郎は美桜の元へと帰って来た事を実感した
薄い寝間着越しに伝わる炭治郎の少し高い体温が肌寒く感じる夜の空気には心地好くて美桜の呼吸が深くなる
「眠っていいよ」
炭治郎の優しい響きに頷き、石鹸の香りがする炭治郎の髪に顔を埋め眠りに落ちた
朝日名美桜(あさひな みを)
は、戦国の時代から産屋敷家に使えている薬師の末裔で、江戸になってからは岩柱である悲鳴嶼の屋敷近くの山の麓に住み、高原でしか育たない薬草を育てている家に産まれた一人娘だった
両親は二年前町に出掛けた時に事故に合い帰らぬ人になってしまった。
今は美桜が1人で、毎朝馬に股がり薬草畑のある高原へと向かい管理をしている
祖母の時代に開国され、海外から医師らが日本へと来た時に朝日名家の作る稀少な薬草が静かに広まり噂になっていた
その薬草の栽培地に唯一たどり着けたのが美桜の祖父のイギリス人医師だった
美桜の父親は母の血が濃く日本人顔なのだが、美桜は祖父に似て琥珀色の髪と、瞳は翡翠色だった
この時代に美桜のような子供は珍しく、山暮らしだった美桜は、小学校に入った時に初めて自分の容姿が他の子供とは違う事に驚いた
特に瞳の色は気味悪がれ、美桜は友達もできないまま小学校には行かなくなり、そんな美桜に勉強と医学を教えたのは祖父で
学校に行けなくなった美桜の事を知り、薬草を届ける度に話し相手になってくれた産屋敷輝哉が唯一の友達だった
輝哉が頭首になってからは、柱と産屋敷家直属の隠達を美桜に積極的に会わせて美桜の狭い世界を広げてくれた。その少しの変化が美桜の山から人の多い町へと行く事の恐怖を和らげてくれた
そんなある日、胡蝶の使いで高原に炭治郎が薬草を取りに登ってきた。