第27章 【それぞれのクリスマス】
「ッ……シリウス!!」
暗く静まった廊下にクリスの声が反響すると、シリウスはまるでクリスが呼び止めるのを待っていたかのように、ピタリと足を止めた。
やおら振り返ったシリウスの表情は、怒っていると言うよりも寂し気に見えた。
「あの、その……こんな事言っても気休めにもならないかもしれないが、決してシリウスの力を信用していない訳じゃないんだ。ただもしも……もしもシリウスの身に何かあったらと思うと、それが怖くて仕方がないんだ」
そう、それは嘘じゃない。シリウスには十分すぎるほど、精神的に支えて貰っている。父を亡くし、セドリックを亡くした今、シリウスにまで死なれたらきっと今度こそ立ち直れない。
それが分かるから、つい臆病になってしまう。
目を伏せて俯くクリスの顔に、シリウスはそっと自身の長い指をそえると、その長身をかがめ、かるく目を閉じると同時にクリスの唇にキスをした。
「ありがとう。おやすみクリス」
「お……おやすみ」
呆然とするクリスをその場に残し、優しく微笑むとシリウスは自分の部屋に戻って行った。クリスはその場に突っ立ったまま、ついさっきシリウスの唇が触れた場所――自分の唇に指をあてた。
キス――された。それもサラッと流れるように。不思議と嫌と言う感情は無かったが、同時にときめきもなかった。ただ、挨拶の延長のような……。
そう、これはきっとシリウスなりの親愛の印なのだ。クリスはそう結論付けると、自分も部屋に戻ってベッドに入った。
いつもなら睡魔の限界が来るまで起きていなければ駄目だったが、その夜は何も考えず――と言うか考えられずに、いつの間にか眠りについていた。