第25章 【夢であれば】
クリスはお腹の裏側を思いっきり引っ張られるような感覚にとらわれた。
そしてその内、ぐるぐると視界が回転して、足が床を離れ宙ぶらりんの状態になり、嵐の中を飛ばされるように空間を移動し、気が付いたらグリモールド・プレイスの廊下に倒れていた。
廊下は暗く、懐かしいというより少し不安を掻き立てれらた。
「フィニアス様のおっしゃる通りだった……本当に戻ってきた、血を裏切る餓鬼ども。薄汚い、ウジ虫にも劣る劣悪種の輩――」
「出ていけッ!!!」
耳をつんざくほどのシリウスの罵声が廊下に響いた。
クリーチャーはチラリとこちらを振り返ると、言われた通り、チッと決して小さくない舌打ちをして廊下の向こう側へ去って行った。
シリウスは皆を助け起こしながら、何があったのかを訊いた。
「夢を――いや、幻を見たんだ。ウィーズリーおじさんが蛇に襲われるところを」
ハリーは夢であって夢ではない現実の出来事として、ウィーズリー氏が襲われたのを見たのだと説明した。
説明はそれほど長いものではなかったが、ある種の沈黙を生み出すのには十分だった。
皆ハリーの言った事が冗談だとは思っていないようで、フレッドとジョージは下を向いたまま顔を上げられず、ロンは青い顔をしていた。
とにかくずっと廊下にいるわけにもいかないからと、シリウスは皆を厨房に招いた。
暗い廊下ではよく分からなかったが、久しぶりに見るシリウスは少しやせた上に、無精ひげをはやし、ローブもよれよれだった。添い寝役がいなくなって眠れなくなったのは、どうやらクリスだけではなかったようだ。
シリウスが「身体が温まるから」と、人数分バタービールを持ってきたが、皆ほとんど口をつけなかった。
どれくらいの間そうしていただろう、突然フレッドが立ち上がった。
「聖マンゴ病院に行こう!今すぐに!!」
「駄目だ」
シリウスが静かに、だがハッキリと言うと、今度は憤然としてジョージが立ち上がった。
「なんで!?こうしている間にもパパが――」
「君のお父さんは騎士団の任務中に襲われた。これは極秘事項だ。君のお母さんでさえ知らない情報を我々が知っていると、他の誰にも悟らせてはいけない」
「任務が何だって言うんだよ!!」
「そりゃあそっちは良いさ!危険な任務にも就かずにここに閉じこもっていれば良いんだから!」
