第22章 【パンドラの箱】
翌朝、クリスはいつも通り紅茶だけの朝食を終えると、そのまま真っすぐ医務室に向かった。少し早かったが、とてもじっとはしていられなかった。
マダム・ポンフリーはクリスにソファーに座って待つよう言うと、暖炉に火を焚いた。
揺れる炎を見ながら、クリスはボーッと炎の中に浮かぶシリウスの顔を思い出していた。
あの晩、シリウスに言われた言葉を思い返す度、クリスの心に明かりが灯ったような温かい気持ちになれた。
「少し早いですが、そろそろ行くことにしましょう。ミス・グレイン。準備はよろしいですか?」
「はい」
「それでは――聖マンゴ病院」
煙突飛行粉をひとふり暖炉に投げ込むと、赤い炎からエメラルドグリーンの炎に変わった。
マダム・ポンフリーに続き、クリスも炎の中に入る。耳をかすめる燃える炎の音と、頬をくすぐる炎の感触が心地良い。
だがそれも一瞬のことで、目を開くとそこは1カ月前に来た病院と何ら変わりなかった。
マダム・ポンフリーは手続きを済ませると、クリスと一緒に待合室のソファーに座って順番を待った。
聖マンゴ病院は相変わらず奇妙な患者が多く、全身真っ赤な皮膚に覆われた人や、風船のようにパンパンに膨らんだ人もいる。
他にも犬歯が伸びすぎて口が閉まらなくなッた人や、足の骨がなくなってタコの様に歩く老人もいて、不謹慎だとは思ったが見ているだけで時間が潰せた。
「グレイン、クリス・グレインさん」
名前を呼ばれ、クリスはマダム・ポンフリーと一緒に診察室のドアを開けた。
中に入ると、そこには白髪交じりの長い茶色い髪を1本に縛り、眼鏡をかけた優しそうな男の先生がいた。クリスはその先生を見た時、大好きなルーピン先生を思い出した。
「やあ、君がクリス君だね。僕はバーナード・クインソン。君のヒーリングを担当する癒者だ。気軽にバー二ーと呼んでくれ」
「……初めまして、バーニー先生」
「モリスン先生から話は聞いているよ。大丈夫、僕に任せてくれれば必ず良くなるからね。それじゃあ、まずはカウンセリングからいこうか。今日の朝食は?」
「紅茶……です」
「それだけ?駄目だよ、朝はしっかり食べなきゃ。食事は健康の元だからね」