第12章 拾弐ノ型.焦がれる
あれだけ大声を出して出てこないのだから、ここにいない事など分かっていたのだがやはり少しだけ寂しい煉獄。
目に見えてしょんぼりと肩を落とした煉獄を見て、千寿郎がくすくすと笑う。
「兄上、刹那さんは昨夜任務に向かわれました。今日の夕方には戻ると言っていましたよ。」
「うむ!そうか!息災そうでなにより!!」
弟にまで見透かされるほどに態度に出ていたのかと少し恥ずかしく思いながら、当たり障りのない返事をしてふと気づく。
視線の先には開け放たれた父の部屋。
年中敷かれていた布団や、そこかしこに転がっていた酒瓶が綺麗に無くなっているのだ。
部屋の主は不在だが、明らかに以前よりも明るくなった部屋の雰囲気。
「千寿郎、父上は何処に?」
疑問をそのまま口に出せば、自分とよく似た顔と目が合う。
その表情も父の部屋のように明るかった。
「父上は母上のお墓に行かれています。最近はお酒も辞められて、よく鍛錬する姿も見ますよ。」
煉獄は己の耳を疑う。
最後に父を見たのは無限列車の任務に向かう日だったか。
出発の挨拶をした時、父は変わらず布団に寝転び煉獄を一度も見ることも無く酒を煽っていた。
そんな父が何故そこまで変わったのか煉獄は不思議でたまらない。
理由に全くと言っていいほど心当たりがなく、むむむと唸る煉獄に千寿郎がそっと耳打ちしてくる。
「実は...兄上の状況を伝えに炭治郎さんがうちへやって来たんです。その時炭治郎さんと刹那さんに叱咤されて、その日からです。父上が変わったのは。」
思わぬ名前に煉獄は驚きに目を見開いた。
「竈門少年と、刹那が?」
そう。
煉獄が蝶屋敷に運ばれ傷の深さもあり再び昏睡状態になった頃だろうか、炭治郎は一度ここを訪れていた。