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千分の一話噺

第249章 土産


「とりあえず生ね」
居酒屋でよく聞くフレーズだが、ここは俺の家だ。
「バカヤロー、ここは居酒屋じゃねぇよ」
「これから呑むんだから…
それに今日は土産もあるんだぜ」
先週まで海外出張していた友人の誠が帰って来たので『お疲れ会』と称した飲み会を家で開いた。
「これで呑むと更に美味いぜ」
誠が土産と言って出したのは陶器のビールジョッキ。
「おっ♪お前にしちゃ気が利くじゃねぇか」
そこへ妻がビールと料理を運んできた。
「誠さん、久しぶりね
まぁ素敵なジョッキ♪」
妻も気に入った様だ。
早速、陶器ジョッキにビールを注いで三人で乾杯した。


「しかし、お前が文子さんと結婚して家まで建てるとは思わなかったけどな」
「なんだよ今更…羨ましいならお前もサッサと結婚しろよ」
苦笑いした誠は窓の外に目をやった。
「ん?あの花は、ヒースか?」
まだ日の落ちていない庭に咲く花を見付けた。
「へぇー、誠さんってお花に詳しいの?あれはエリカよ
英語だとヒースって言うらしいわね」
文子が答えた。
俺は花は綺麗に咲けば、名前なんか気にした事はなかった。
「詳しいって訳じゃなくて、たまたま出張先でヒースの伝説みたいな話しを聞いたんだ」


中世ヨーロッパにスコットランドの先住民と云われるピクト人がヒースの先端の柔らかい部分と麦芽を混ぜて「ヒースビール」を作ってた。
しかし、キリスト教の武装布教団が攻めてきて、ピクト人は敗れてしまった。
布教団はビール職人の親子を捕らえ、ヒースビールの製法を教えろと強要したが、父親は頑として教えようとしなかった。
布教団は怒って父親の目の前で息子を殺してしまった。
それでヒースビールは永遠に失われたと云う。


「ヒースビールって麻薬成分が含まれてるらしくて、布教団はそれを狙って攻めてきたんじゃないかって…」
「そんな伝説のビールって呑んでみたいな…
当時はやっぱりこんな陶器のジョッキだったんだろうな」
俺達は庭のエリカを見ながらまた乾杯をした。



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