• テキストサイズ

千分の一話噺

第514章 ホトトギスに誘われて…


私達は山菜狩りにやって来た。
遠くで鳥の鳴き声がすると…。

「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」

旦那がそんな事を言った。

どこかで聞いた事がある。
「それって川柳ってやつ?」
「これはれっきとした俳句だよ、江戸時代のね」
彼が俳句に詳しいなんて知らなかった。
「じゃあ、今のがホトトギスの鳴き声?」
「例えで“東京特許許可局”って聞こえると言うけど、ちょっと無理あるよな」
彼は苦笑いしている。
確かに無理があると思った。

快晴の空、まだ湿気が少ないとは言え山道をちょっと歩くと汗ばむくらいだ。
「ふぅ…山菜狩りって大変なんだな」
「こんくらいで根を上げてたら、美味しい山菜は採れないよ」
私は田舎育ちで実家にいた頃は、しょっちゅう山菜を採りに行ってたから慣れたものだ。
「今ならどんな山菜が採れるんだ?」
「そうね…、ワラビ、ゼンマイ、山うど、タラの芽とか…かな?
タラの芽は絶対欲しいわね
天ぷらにしたらもう…」
想像しただけでヨダレが出そうだ。

彼は都会育ちだから山菜狩りは初めて。
見た目で分かりやすいワラビやゼンマイを採ってもらう。
私はとにかくタラの芽を探す。
「タラの芽…タラの芽…」
後で聞いたのだが、彼が引くくらい目の色が変わっていたみたいだ。

「…あら?風が変わったわ」
しばらく別々に山菜狩りをしていたが、すぐに彼の元に戻った。
「雨になりそうだから、山を下りましょ」
「えっ?天気予報は一日晴れだったよ?」
山育ちの私は天気予報より今での経験で分かる。
「山の天気は変わりやすいって言うでしょ!
下りるわよ!」
私達はすぐに下山を始めたが、下りきらないうちにパラパラと降りだした。
「うわっ…本当に降ってきた」
「これならすぐ止むと思うけど急ぎましょ」
駐車場に突いたときには雨も止んで晴れ間が出ていた。
「小雨程度で助かった
…でも、天気予報より正確だな」 
「当たり前よ、田舎育ちをナメないでね」
山菜もちゃんと採れたし、久しぶりの山も楽しかった。

帰り際、山の方でホトトギスが鳴いていた。


end
/ 1580ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp