第5章 奥州の竜
(そろそろお開きになったかな…?)
自室で過ごしていた雪乃は、欠伸をしながらぼんやりそんな事を思った。
夜も遅い。
元親と政宗たちの話し合いが終わっているなら、食事の後片付けをしなくては…
(ちょっとだけ様子を見に行ってみよう)
広間へ向かうと、中からは何の音も話し声も聞こえなかった。
どうやら話し合いは終わったらしい。
一応「失礼します」と声を掛け、静かに襖を開ける。
「……、」
そこには政宗も小十郎の姿も無く、大の字に寝転がった元親が寝息を立てているだけだった。
どれだけ飲んだのか、あちこちに酒瓶や猪口が転がっている。
「元親さん、風邪引きますよ」
せめて自分の部屋で寝てもらおうと声を掛けるも、彼は全く起きる素振りを見せない。
仕方なく何度か名前を呼びその体をゆさゆさ揺すってみると、ようやく身動ぎして目を開けた。
「…おー、雪乃かァ……」
「寝るならちゃんとお部屋で休んで下さい」
「俺ァまだまだ飲めるぞォ…」
「………」
(ダメだ、話が噛み合わない…)
体を起こそうとしないどころか、また眠りに就こうとする元親。
慌てた雪乃が再び彼に声を掛けると、突然腕を強く引っ張られた。
「ちょっ…、元親さん…!?」
「…オメェもここで寝りゃいいだろ……」
「…っ」
元親の上に乗っかるような形で彼に抱き締められる。
完全に体をホールドされ身動きが取れない。
「も、元親さん!寝呆けないで下さい!」
そう訴えてみるものの、彼は再び寝息を立て始めた。
(ど、どうしよう…)
まさか朝までこの状態でいる訳にもいかない。
そう雪乃が困っていると…
「♪~、熱いねぇ」
「…!」
背後で口笛の鳴る音と、聞き覚えのある声が聞こえた。
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