第21章 消息の途切れ
小さく、小さくなってゆく弟。
誰か時間を止めてくれ。
もうそんなことしか考えられない実弥の震える手の先で、玄弥は力なく微笑んだ。
バサ······ッ
「!!」
玄弥は実弥の手の中から跡形もなく消えた。肉片を微塵も残すことなく、隊服と、その上に重ねた袖なし羽織だけが実弥の上肢にへばりつく。
「あああああ玄弥!! ああっ、うああっ、玄弥───っ!!!」
実弥は慟哭した。
亡骸を持ち帰って墓に納めることもできない。
なにも、してやることができない。
隊服を抱いてうずくまり、実弥はその場で泣き叫び続けた。
「不死川、行かねばならぬ」
背後に佇む行冥もまた、ひどく胸を痛めていた。
どんなにかつらいことだろう。
目の前で最愛の弟を失った悲しみは、強靭な精神力を持つ実弥の心をも深くえぐり立ち上がる気力を奪う。
行冥とて、玄弥の師だ。共に生活するにつれ、家族のような情も湧いていた。
この兄弟のことも気にかけていた。こんな結末を望んでいたわけではない。
「顔を上げろ」
しかし容赦ないと承知のうえで、うずくまる実弥の背に言いつける。
例えどのような状況になろうとも、悲しみに暮れ立ち止まっている時間などない。
無惨のもとへ行かねばならぬ。無惨を殺して地獄に落としてやらねばならぬ。柱の力が絶対なのだ。
無一郎もしのぶも旅立った。
鴉から、上弦の弐との戦いの末しのぶが死亡したと知らされた。
胡蝶姉妹に抱く想いも親心のようなものである。
行冥も、憤懣やるかたない思いに腸が煮えくり返るのをこらえていた。
「無惨を倒すまで終わりではない」
罪のない、数えきれぬほどの者たちを絶望へと突き落としてきた無惨。
実弥の胸に行冥の言葉がよみがえる。
『時透と玄弥の命を無駄にするな!!』
そうだ。
共に戦い失った者たちの命を、無駄にすることだけはあってはならない。
実弥は、己の身体に鞭打つように、全身に力を込めた。