第21章 消息の途切れ
肩が震えた。今さら玄弥の想いを知ったところでと、己を責めずにはいられなかった。だが、頑なに玄弥を突き放してきた日々は、こんな風に血にまみれ消えゆく最期を迎えさせるためのものではない。
決して、こんな最期を望んでいたわけではないのだ。
玄弥の崩壊が加速してゆく。顔はひび割れ、隊服の下の肉体の感触が刻一刻と消えてゆく。軽くなる。
俺は、このまま為す術もなく打ち震えることしかできないのか。
ここへ辿り着いてすぐ、黒死牟に絶命させられかけていた玄弥を間一髪のところで救出した。
だから、言わんこっちゃねぇ。
長いこと、密かに抱き続けてきた想いがたまらず口をついて出ていた。
人並みの幸せを送って長生きして欲しいと願った想い。
そのとき玄弥が涙声で「兄ちゃん」と呼んだ。
懐かしい響きだった。
「同じ···気持ち···なん···だ······兄弟···だから···」
最期の力を振り絞るように言葉を継ぐ玄弥に耳を傾け、遠い昔、この背におぶってやった幼き頃の弟を想う。
癇癪持ちで、危なっかしくてほうっておけない。家族想いで、弟妹が近所の悪ガキにからかわれているのを見れば飛んでいって喧嘩をふっかけよく怪我をした。
「つらい···思いを···たくさん···した···兄ちゃん···は······幸せに···なって···欲しい······死なないで···欲しい」
玄弥が鬼殺隊にやってきたのは、昔、兄である自分が家族を『二人で守ろう』と導いてしまったばかりにと思っていた。
玄弥は馬鹿がつくほど素直で優しい奴だから。
なんでも、真面目過ぎるくらいに呑み込んじまう奴だから。
「俺の···兄ちゃん···は···この世で···一番···優しい···人···だから···」
優しすぎるから、消えゆこうとする最期まで、
この俺の幸せを願うなんざぬるいことを垂れやがる───…
「あ"あ"あ"あ"頼む神様、どうか、どうか、弟を連れて行かないでくれお願いだ!!!」
頼む。頼む。玄弥の代わりに俺を連れていってくれて構わねぇ。玄弥と星乃が笑って生きてくれさえすれば、俺はどうなったっていい。
「あり···が···とう···兄···ちゃん···」