第17章 この指とまれ
痣を発現させた者は【痣者】と呼ばれ、彼らには例外なくとある事実が認められている。
『痣を発現させた者は、どなたも例外なく、二十五の歳を迎える頃に寿命が尽きています』
それが、柱合会議であまねの口から告げられた事実だった。
謂わば痣とは寿命の前借りのようなものであるという。発現させれば爆発的な身体能力の飛躍が見込めるが、代わりに命の灯火が削られる。
もしも実弥が痣を発現させた場合、例え鬼狩りで命を落とすことを避けられたとしても、二十五より先の人生を生きられるかは不明ということになる。
実弥の歳は二十一。痣を出せば、残り四年保つかどうかの命。
「無限打ち込み稽古にしたのは、そのため?」
実弥は差しうつむいて頭を掻いた。
休息もせず、力尽き倒れるまで実弥に斬りかかってゆく。複数の隊士がだ。つまりそれは実弥もまた休む間もなく攻撃を受け続けるのである。
飛鳥井家に伝わる指南書にも痣を発現させるための条件は詳しく記されていなかった。とはいえ呼吸を習得する際の鍛練の過酷さ同様、身体になんらかの負荷をかけるのではないかということが予想される。隊士らの能力向上のためというより、実弥は自らの身体により負荷をかけられる方法を優先したのではないだろうか。
「······悪い。黙っているつもりはなかったんだが」
痣を発現させることに迷いはない実弥だが、唯一、星乃にだけは気が咎める思いでいた。だからといって黙ったままでいるつもりもなかったし、柱稽古がはじまるまでにはそれとなく伝えるつもりでいた。
星乃が痣の存在を認識していたことを、実弥は知らなかった。これまで仲間内で痣の話が話題にのぼったことはなく、もちろん匡近の口からも聞いたことはない。
煉獄家や飛鳥井家は代々鬼狩りを受け継ぐ家系だ。先祖の手記に残されていた文言が血縁の間柄のみに言い伝えられていたというのならば納得できる。
「けれど、それならなおさら、私も稽古に参加させてもらったほうが」
「いいや、必要ねえ」
実弥の力になれるかもしれない。
そう言い終わる前に、実弥は星乃を遮った。
気持ちだけありがたく受け取らせてくれと丁重に断りを入れる実弥の口調は、いつにもまして穏やかだった。