第4章 +アルファ/夢主はイルミの幼馴染
“獣医になるのが夢で、春からこっちの獣医大学に通う事になったの!”
昼間に意気揚々と話していたユイの姿を思い出してみる。
希望に溢れた人間の目はよく知っている。それと同数だけ 挫折を見る目、快楽に流され溺れる目、卑屈に人生を放り出す目も知っている。
ユイは何もわかっていない、結局は世間知らずな田舎の子供でしかない。
「夢は所詮 “夢”、幻想なんだよ」
言い放った所で当然だが返答はない。
夢を与える仕事であるからこそ、夢の儚さと残酷さを知っている。夢とは願って叶うものでも努力で手に入る物でもない。
夢とは、限られた条件内でのみ発動する自らの自己満足にすぎない。脆い空間が崩れてしまえばたちまち相互作用は崩壊し 残るのは空しい現実だけである。
それに気付けぬ人間は愚かで無様、欲望の渦巻く街では搾取対象になるしかないのだ。
「ユイにはこの街は似合わないんじゃないの?」
独り言の後、イルミはユイの隣にごろりと横になる。
たった数十分放置しただけであるのに 客や店から数件の連絡が残るスマホを眺める。中身をざっと一読した後、片手で返信を始めた。