第1章 始まりは突然に・・〈一松〉
『商店街抜けて新しくできた、アカツカタワーマンションに今住んでる』
「金持ちかよ・・・」
そう言えばこいつお金持ちのお嬢様だったな、と今更思いだす。
いい意味で昔から花子はお嬢様っぽくなくて、付き合いやすかった。だからその事実を忘れてしまいがちだが、こいつは筋金入りのお金持ちだった。
・・・おれだったら、絶対働かないのに。
『一松くん?話聞いてる?』
「・・あぁごめん、ぼーっとしてた、」
『もうっ、他のみんなは元気?って何回も聞いてたんだよ。』
「あぁ、変わらずだね。みんなバカみたいに元気。むしろそれしか取り柄ないかな。」
そんなことないでしょ、なんて花子は笑うが、そんなこと大ありなのだ。
「・・てかさ、・・遠くない?」
おれから5.6歩離れたとこから着いてくる花子。
『だって、一松くん・・・男の子じゃん。』
「さっきも言ったけど、そんな痣だらけの女、相手にしない・・・。」
そもそもおれ、童貞だし。
あわよくばとは思うが、そんな簡単に女の子とあーんなこととかこーんなこととか出来ないし。
おれがおそ松兄さんだったら、話は別だけど、ここにいるおれはゴミでクズな一松。
あんたに触れる勇気さえない。
そんな、どうでもいい話をしながら歩くとアカツカタワーマンションに着いた。
ここらで一番背の高いタワーマンションを見上げると、なんだかんだ言ってもやはり花子とは住む世界が別なんだと思った。
エントランスでエレベーターに乗り込む花子。
『一松くん、ありがとうね。』
「・・・別に、」
『またね。』
そういうと、エレベーターの扉は閉まりぐぅーんと音を立てて上昇した。7の数字のところでエレベーターが止まる。
・・・花子は7階に住んでるのか。ん?あれ?なんかおれ・・・まるでストーカーじゃないか。気持ち悪いぞ、一松。
自分に言い聞かせ、マンションを出ようとすると、同じタイミングでスーツを来た男性がマンションに入るところだった。
如何にもお金のありそうなサラリーマンだな、と思いながらそいつの顔を見ると、金曜日で疲れているのかおれと似たような、死んだ魚の目をしていた。