第1章 始まりは突然に・・〈一松〉
夜8時。
サービス残業を終えて、職場を後にする。外はすっかり真暗だった。
街は華の金曜日で、煌びやかな服を来た若い男女が楽しそうに歩いていたり、スーツを来たおじさんたちが居酒屋に向かって歩いていたり。
なんだか、自分だけこの世界にひとりぼっちな気がして少しだけ寂しくなった。
そんなときだった。
「・・・あんた、こんな遅くまで仕事してんの?社畜だね〜アホすぎて・・・、」
いつもの路地裏から一松くんの声が聞こえてきた。
『アホすぎて何よ?』
「・・・別に、」
『どうせ、バカだなって思ってるんでしょ?』
「・・・・・。」
分が悪くなったのか、一松くんは目を逸らしてボサボサの頭を掻いた。そして持っていたにぼしを全てネコちゃんたちにあげると、歩き出した。
「・・・あんた、一応女なんだからさ、もっと早く帰った方がいいんじゃないの?」
『こんな女、誰も相手にしないよ。』
昔の私はこんな卑屈ばかりの可愛くない女ではなかった。(・・・と自分では思っている。)
「・・・確かにそんな痣だらけじゃ、誰も相手にしないか。」
『・・・っるさいな。』
「・・・家、何処なの?」
『えっ?』
「送ってくって言ってんの。それともなに?やっぱりクズでゴミなおれに家知られるの嫌?」
そんなことない、と私は首を思いっきり横に振った。
ただ、すごく意外だった。
いつも気怠そうにしてて、ネコちゃんにしか興味のない一松くんがわざわざ家まで送ってくれるなんて予想だにしなかった。