第8章 激動のパンフェスティバル
ムギとプリンの間に友情はあるのか。
なくはない、という表現が一番正しい。
学年が違うとはいえ、プリンとはほぼ毎日昼食を共にしていて、連絡もちょこちょこ来る。
私たち友達だよね?なんて薄ら寒い友情漫画のような確認こそしていないが、世間一般的にムギとプリンは友達だ。
ローと付き合う間際には背中を押してもらったし、どちらかといえば放任主義のボニーと違って心配もしてくれる。
が、しかし、見知らぬ地でバイトに勤しむムギを想って現地に駆けつけるほどの友情は、はっきり言ってない。
むしろそんな友情はないのが普通で、サンジが想像する美しい友情とやらは夢物語である。
プリンがここへやってきたのは、言わずもがなサンジが目当て。
恋する乙女の行動力にはドン引き……ではなく尊敬するが、せっかくの行動力もツンツン塩対応のせいで台無しだ。
「えーっと、プリン先輩はわたしに会いに来たわけじゃないですよね?」
「違うわよ! パンを食べに来たの!」
そうじゃない。
そこはサンジに会いに来たと言ってくれ。
ただでさえ恋の応援なんかできないのだから、素直になってくれないと困る。
さらに言うのなら、残念ながらプリンを応援する余裕がムギにはない。
こうしている間にも、バラティエのテントに並ぶ客数は増え続けているのだ。
「なにが目当てかなんてどうでもいい。お前、暇ならなんか手伝え。」
そう命じたのは、責任者のサンジでもなければ従業員のムギでもなく、完全なる部外者のロー。
なにを勝手に決めているんだと思う反面、今は猫の手だって借りたい状況なのだと思い出す。
借りられるのが猫の手じゃなく美少女の手なら、なおさら借りたい。
「な、なんで私が……!」
「プリン先輩、手伝ってもらえたらめちゃくちゃ嬉しいです! ね、サンジさん!」
「そりゃまあ、助かるけど……。でも、プリンちゃんはパンを買いに来たんだろ? そんなワガママは言えねぇよ。」
「……ッ! しょ、しょうがないわね! ムギが……、そう、ムギが困ってるから、だから手伝ってあげるわ! ちょうど私、暇だったから!」
軽井沢まで来て、暇な理由とは如何に。
ツッコミのセリフが喉まで出掛かったが、懸命な判断により口にはしなかった。