第7章 トラ男とパン女の攻防戦
ぽかんと間の抜けた顔をしたムギは、いつにもまして隙だらけだ。
丸い瞳がこれ以上ないくらい見開いて、その眼差しは「信じられない」と告げていた。
正直、信じられないと思うのはローの方だ。
あれだけわかりやすくアピールしていたのに、気づいていないとは。
「……わたしのこと、からかってます?」
ようやく言葉を発したかと思えば、彼女はローの告白を信じていなかった。
「嘘や冗談で、俺がそんなことを言うと思うのか?」
「……。」
押し黙る彼女は、ローがそんな冗談を言わないと知っているようだ。
事実、絶対にローは他人に対して惚れた好いたと冗談で言わない。
惚れたと、好きだとムギに想いを寄せたのは紛うことなき真実で、もはや隠しもしなかった。
例えムギが他の男を好きであっても、必ず振り向かせて手に入れる。
そう意気込んで接してきたつもりなのに、まさか責任やら性癖やら、米ひと粒分も気がついていなかったとは少々甘く見ていた。
彼女には、もっと直接的な言葉と行動が必要らしい。
「信じられねェなら、何度でも言ってやる。お前が好きだ。だから絶対に別れない。」
「んな……、な……ッ。」
間抜け顔ではなく、今度は真っ赤に染まった頬。
口をぱくぱくさせ、色鮮やかな金魚のようだ。
滑らかな頬に触れてみたい衝動を我慢したのは、触れたら最後、噛みつかない自信がなかったから。
「で、でも、そんな素振り一度だって見せなかったじゃないですか!」
「あァ? なに言ってんだ、お前。よく思い出せ、なにからなにまで“そんな素振り”だっただろ。」
「えっと、それは……。」
「好きでもない女にキスなんかするかよ。」
「だ、だから、えっと……!」
攻めれば攻めるほど、ムギがしどろもどろになっていく。
一度意識してしまえば、ローの行動の意味がわからないほどムギも馬鹿じゃない。
でも、今さら狼狽えたって遅い。
仮でもフリでも、ローと付き合うと決めた時点でムギの負けなのだ。