第2章 とにかくパンが嫌い
「あの……ッ、ロー先輩……!」
突然ローの名前を呼んだのは、見知らぬ他校の女生徒だった。
赤らめた顔で手紙を握りしめる女を見て、ローは「またか……」とうんざりする。
「突然すみません! あの、私、ずっと前からロー先輩に憧れてて……それで、よければお友達になってくれませんか?」
女は言葉どおりに“友達”になりたいと望んでいるわけではない。
大切なことをなにひとつ言わないで付き合おうとする女には、女性特有のあざとさを感じた。
「断る。」
そもそも、彼女がローに憧れている理由とは、容姿だけである。
自分で言うのもなんだが、ローはあまり性格が良くない。
もしも内面を知っている女なら、好きだの憧れだのと口にするわけがないのだ。
これで話は終わったものだと思ったのに、女はなかなかしつこかった。
「ロー先輩! じゃあせめて、手紙だけでも受け取ってください! 連絡先が書いてあるんです。だから、気が向いたら……!」
去ろうとするローに一生懸命想いを告げる少女は、傍から見たら可愛く思えるのだろうか。
一般男性の気持ちが少しもわからないローは、見知らぬ女に好意を抱かれ、勝手に名前を呼ばれることに薄ら寒い気色悪さを覚えている。
「いらねェよ、そんなもん。俺に気安く話し掛けるな。名前も呼ぶな。」
女がローに対し、どんな幻想を抱いているかなどわかるはずもない。
しかし、女へ好意を持てそうにもない以上、くだらない幻想は早々に壊してやるのが最初で最後の優しさ。
冷たく言い放つと、こちらを奇妙な顔で眺めていたレッサーパンダを追い抜き、ローは速足で駅をあとにするのであった。