第2章 とにかくパンが嫌い
女のなにが嫌かといえば、彼女らは集団で迷惑行為をしてくるところだ。
下駄箱やロッカーに謎の贈り物や手紙を突っ込んできたり、こっそりあとをつけて自宅を探ろうとしたり、カメラで撮影した画像を拡散したり、挙げていけばキリがない。
もしもローが繊細な心の持ち主なら、とっくに女性不信に陥ってしまうくらい、女には辟易していた。
ローからしてみれば、なぜシャチがああまでして女と知り合いになりたいのかが不思議でしかたがない。
だから当然、告白などされても嬉しくもなく、迷惑なだけだった。
なんの因果か知らないが、パン好き女とは縁があるようだ。
彼女と初めて目が合ったその日、帰りの駅で再び彼女と出くわした。
嫌がらせにも近い行為により、普段から視線に敏感だったローは、駅のホームでちくりと刺さった視線に反応して振り返る。
視線の先には、彼女がいた。
なんだ、お前か……と言いかけて、彼女とは知り合いでもなかったことを思い出す。
特に声を掛けたいわけでもなかったけれど、どうすることもできなくなったローは、顔を顰めて彼女を見つめた。
生まれつき、ローの目つきは悪い。
凄まれていると勘違いしたのか、彼女は視線をうろうろ彷徨わせると、そそくさと改札口へ向かって歩き出してしまう。
彼女とはまさしく他人であるのに、あまりにもよそよそしい態度になぜだか不満が残った。
(レッサーパンダの分際で無視するとは、いい度胸だな。)
胸に残った謎の苛立ちの正体を彼女に無視されたせいだと納得したローは、去っていく後頭部を憎々しげに睨んだ。
しかし彼女は、そのすぐあとに再び視線をこちらに戻すことになる。