第39章 ・・・殺す
「・・・全然良くないよっ、」
「何か言ったか?」
下を向き唇を噛み締める私に、赤司くんは優しく声をかけてくれた。その声に聞き覚えがあった。マネージャーになったばかりの私が、タオルを落としそうになったとき、それを支えてくれたあの日と同じ優しい声をしていた。
“気をつけて、いつもありがとう。
日々チームを支えてくれていることに感謝している”
絶対に忘れたりなんてしない。
あの日から私はずっと赤司くんが好きなのだ。
部活中はもちろん、授業中だって私の視線の先はいつも赤司くんだった。たまに目が合うと嬉しくて、“おはよう”“お疲れ様”なんて挨拶をされた日には一人舞い上がっていた。
そんな赤司くんの視線の先にいるのが、自分じゃないことくらい直ぐに分かった。そしてその先にいる人物はいつだって山田さんだった。
勝てないと思った。
小学生の頃からずっと一緒の幼なじみだと風の便りで知っていたが、ただの幼なじみじゃないことくらい赤司くんの顔を見ればこれまた直ぐに分かった。
・・・山田さんさえいなければ。
そんな酷いことを思ったりもした。ダメだと分かりながらも、そうしてみんなと一緒になって山田さんへの嫌がらせもした。
でも考えて考えて、バカみたいに考えて、漸く気がついたのだ。あれもこれも全部無意味だったと。
「赤司くん、」
「ん?」
「体育館倉庫に行って、」
「なぜ?急にどうしたんだ?」
「いいから早く体育館倉庫に行って。」
“山田さんが危ないの”
声を荒らげた私の言葉を赤司くんはきっと最後まで聞かなかっただろう。一瞬で血相を変えた彼が私を置いて、見向きもせずに走って行った。
それが意味すること。
私の初恋が終わってしまったということ。
けれども不思議と涙は出なかった。
ただ心の中が急にポッカリと開いたような感覚だけが残っていた。