第39章 ・・・殺す
今日は朝からずっと気分が悪かった。
隣の席の女子が心配そうに私の顔を覗きこむ。
「宮古さん顔色良くないけど、大丈夫?赤司くんとなんかあった?」
「ううん、何もないよ。」
「そうよね、赤司くんってすごく優しそうだもんね。」
「うん、本当に優しい人だよ。」
その言葉に嘘はなかった。
周りから良いカップルだと言われるくらいに、赤司くんは私に優しくしてくれた。
“付き合ってくれたら、もう山田さんに嫌がらせなんてしない”
自分の口から出た言葉たちに、自分自身が1番驚いていた。一体いつから私はこんなにも性格の悪い女になってしまったのだろうか。
大馬鹿者だと思った。
でもそんな私に対して冷えきった目で笑いながら頷いた赤司くんは、もっと大馬鹿者だと思った。そうして私たちの恋人ごっこがスタートしたのだ。
もちろんそこに気持ちはない。
それなのに赤司くんは本当に良くてくれた。学校の行き帰りはもちろん一緒だったし、部活中だってよく気にかけてくれた。
驚くことに、そんな毎日が約半年も続いた。
始めこそ不純な動機だったかもしれないが、もしかしたら赤司くんも私のことをだんだんに好いてくれているんじゃないだろうか。
そう錯覚してしまうほどに赤司くんは私に優しくて、素敵な彼氏を演じてくれていた。
だから私は、あの黒くてモヤモヤとした気持ちをすっかり忘れてしまっていたのだ。
“赤司っち、お願いしますよ〜”
“ダメだ。花子にオマエは不釣り合いだ”
“もう、なんでそんなに厳しいんですか〜”
“アイツが大切だからに決まっているだろ、いい加減諦めてくれ”
最後のその一言を聞いてしまったとき、あぁ、やっぱり私たちは恋人ごっこを演じていただけで、本当の恋人ではなかったのだと改めて現実を突きつけられた気がした。
そして今でも、赤司くんは私なんかじゃなく、山田さんのことを想っているんだということを痛感させられたのだ。