第37章 これだから恋愛初心者は
『あーもうすっかり夜だね。』
楽しみにしていた初デートは、光の速さ如く一瞬で終わってしまった。流行りの映画を見て、オシャレなカフェでランチして、水族館で魚やペンギンを見たあとは、フラフラとウィンドウショッピングをした。
全部が楽しくて、一分一秒でも長く今が続けば良いのにと願うほどだった。
時刻は20時。
最寄り駅から家まで歩いて帰る。そろそろ夏休みも終わりそうだというのに、まだジメジメと暑い。
「オマエ、課題は終わっているのか?」
『あー、うん・・・・・ぼちぼちかな。』
汗ばんだ耳もとに髪の毛をかける。
実際そろそろ真面目に取り掛からないと間に合わないかもしれないくらいに、夏休みの課題は残っていた。
「オレは手伝わないからな。」
私の嘘はいつも通り、いとも簡単に見抜かれる。そして長い長い夏休みの終わりが近づいているからなのか、少しばかり寂しいような切ないような刹那的な気分が私を支配した。
その理由はただ夏休みが終わるということだけではなく、もっと違う最もな理由がある。
「なあ、花子。」
『ん?』
「今日楽しかったな。」
『そうだね。』
次のデートは何処に行こうか?
なんて口が裂けても聞いてはいけないことくらいもちろん理解している。そしてきっとこのデートが大会前最後になりそうなこともなんとなく分かる。
バスケ部の年間スケジュールを確認すると次の休みは11月のウィンターカップ予選が終わったあと。そこまで、(いやもしかしたらウィンターカップが終わるまでか?)デートなんて出来やしない。
とどのつまり、このデートが終わってしまったら次のデートは当分先になってしまうことが私は正直寂しいと感じていたのだ。
『ねぇ、真ちゃん。もう少し時間平気?』
私の誘いに乗った真ちゃんの手を引き、そのまま私の部屋へと招き入れる。そして私たちはどちらともなく口付けを交わし、お互いのイイトコロを撫でまわしながら身体を重ねたのだった。
そしてそれからの2ヶ月ちょっと、私たちは練習に明け暮れる日々を過ごした。もちろんデートをすることもなく、私たちはウィンターカップ予選当日を迎えたのだ。
気付けば季節はすっかり秋になっていた。
(「人事は尽くした」)