第37章 これだから恋愛初心者は
「黄瀬ー、携帯鳴ってんぞ!」
笠松センパイに声をかけられ、体育館のステージに置いてある携帯電話を取る。またオンナかよー紹介しろよな、と後ろから森山センパイの声が聞こえてきたが、聞こえないフリをした。
「あれ、珍しいな。緑間っちだ。」
滅多なことがない限り電話なんてしてこない人が一体何の用だろうか。
・・・さては花子っちとケンカでもしたか?
自然と上がってしまった口角を戻し、笑いそうになるのを堪えながら努めて冷静に電話に出る。
「もしもーし。」
「“黄瀬、オマエはいつもどこでデートしているんだ?”」
「はい?」
一体全体何の話だか分からずに素っ頓狂な声が漏れる。何でオレのデート事情なんか聞くんだ?と思ったと同時に、緑間っちはイライラした口ぶりで話を続ける。
「“明日花子とデートなんだが、どこへ行けばいいか分からん。癪に障るが、オマエの案が聞きたいと言っているのだよ。”」
いやいや、上から過ぎるだろと携帯の向こう側から高尾くんの声が聞こえる。花子っちに直接聞けばいいのに、そう思ったがアノ緑間っちが素直に聞けるとももちろん思わない。
こんな聞かれ方をして多少腹が立ったが、それよりも花子っちには折角のデートを楽しんでもらいたいと思い、ここは花子っちに免じて素直に答えることにした。
「今日中にメールで詳しく入れておくっス。」
練習なんで切りますよーと付け足し電話を切った刹那、またもや電話が鳴り響く。
「今度は誰だ・・・って、花子っち?」
ビックリして急いで電話に出る。今さっき彼氏からも電話あったよ、と言いたくなる気持ちを押し殺して、普通に出る。
『“黄瀬くん、デートのとき彼女がどんな服着てたら嬉しい?明日デートなんだけど、なかなか思い浮かばなくて。”』
電話の向こうであたふたしている花子っちの姿が目に浮かぶ。全く可愛らしいな、と思わず笑ってしまったのが花子っちにも聞こえてしまったようだ。
『“あー、バカにしてるでしょ?”』
「まさか、してないっスよ。可愛いなと思って。」
本当かなー、と電話の向こうの彼女はきっと頬を膨らましているに違いないだろう。