第34章 ごめん、許してくれ
「花子っ!!」
オレは目の前の光景を疑いたかった。
そこにはプールサイドでぐったりと横たわる花子の姿と片方だけのバッシュがあったのだ。
「おいっ!しっかりしろ!花子っ」
花子に駆け寄り両肩を揺するが、呼びかけに返答はない。
脱力しきった彼女の身体を起こせば、服はびしょびしょに濡れジンジンと冷たく、それとは裏腹に息を荒くしている花子の顔は赤く火照っていた。
一目で熱があると分かった。
『はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・はぁっ・・・・・、』
「花子っ、分かるか?オレだ。赤司だ。しっかりしろ。」
冷えきった身体に着ていたジャージを羽織らせ、抱きかかえる。花子は目を閉じたまま苦しそうに息をしていた。
更衣室に入り、水分を拭き取り暖をとる。微かに震える身体はとても脆く、力を入れて抱きしめてしまえば壊れてしまいそうなほど弱っていた。
「何してるんだ、オマエは。」
少しでも暖かくなるように花子を抱きしめ背中を摩りながら、声をかける。もちろん返答はなく花子の口から漏れるのは荒い息だけ。
「花子っ・・・。」
オレは苛立つ感情を抑えるように花子の肩に顔を埋める。
こんなことをしている奴らに苛立っているのだろうか。いや、違う。緑間に様子を見ようと冷静を装っていた自分に腹が立っているのだ。あのとき緑間と何かもっと行動を起こしておけば、こうして花子が傷付けられることなどなかったのだ。
こんなタラレバを言ったところで現実は変わらないが、自分の無力差がオレの胸を締め付けた。
プールサイドにあった花子のバッシュは左足しかなかった。それは刃物で傷つけられたあとが複数あり、もう履けなそうだった。
オレにはそれが到底理解できなかった。
花子のバスケセンスが羨ましかったとしてもここまで卑怯なことをする人の気持ちなど分からないし、分かりたくもない。
ただ、自分の幼なじみが、大切な人がボロボロに傷付く様はもう見たくなどない。犯人を探しだし、それなりの制裁を受けさせるべきだ。
オレの中で眠っていた加虐心に初めて火が着いたのは、この瞬間だった。