第33章 赤司が大きくなったんだよ
『え?泣いてなんか・・・・・あれっ、』
花子は言われて初めて自分が泣いていることに気が付いたのか、慌てふためいていた。
頬に寄せた親指で掬うように涙を拭い、再び花子を抱き寄せれば、彼女は力なく胸に顔を埋める。
「今度はオレがこうしててやるから、気が済むまで泣くといい。」
オレが泣いていたとき花子が優しく抱きしめてくれたように、今度はオレが花子を抱きしめた。
『・・・あか・・し・・・、私・・・・・ほんとはねっ、』
「何も言うな。・・・分かってる。」
花子は声を押し殺して泣いていた。
オレの胸にいる壊れてしまいそうなほどか弱くなった花子を、オレが守りたいと思った。
幼なじみだからではなく、1人の女性として花子を大切にしたい。できれば、その弱い部分も太陽のように明るく笑う顔も、全部オレだけに見せて欲しい。
・・・オレだけの花子になれば良いのに。
なんて口が裂けても言えない気持ちを咄嗟に隠すように空を見た。大きな満月がオレたちを照らす。
・・・今、緑間はどんな気持ちでいるのだろうか。
花子本人も気付いていなさそうだが、花子はきっと緑間が好きなはずだ。オレが花子を目で追ってしまうように、無意識だろうが花子もよく緑間を目で追っているのだ。
2人のが幼なじみ歴は長いし、仕方ないと言えば仕方のないことなのだが、最近はそれが面白くないときもある。
2人の仲を引き裂きたい訳じゃないのに、どうにかして入れる隙間があるんじゃないかと探してみたり。それでも結局は何も出来ず、何も変えられないままなのだ。
だからせめて、この気持ちを。
決して届かなくても構わないから、今伝えたいのだ。
「なぁ花子、月がキレイだよ。」