第1章 悲しみの日々の終わり
「はぁ………」
残業をこなして帰路に着きながら、本日何度目かの溜息を漏らす。
今日は何とも最低な1日だった。寝坊から始まり、ケアレスミスの連続に、突然降りかかった担当外の仕事。機嫌の悪い上司。
その全てを何とかかわしながら、予定外の残業をこなして会社を後にすれば、外はすっかり夜。星は見えない。生暖かい風が頬を撫でて気分は余計に落ち込んでしまった。
「……帰りたく、ない…」
そう呟いて俯く。帰って彼氏の顔を見るのが、何とも億劫だ。
そもそも今日がこんなに辛いのは、飲み会帰りの彼のスマホのホーム画面に写ったメッセージから、彼の浮気が発覚したせいだ。
それで昨日は深夜まで喧嘩をし、ろくに眠れぬままお互いに口もきかずに出勤したのが今朝のこと。
(どんな顔して…帰ればいいの…)
それなりの年数付き合って、同棲までして。最初ほどのドキドキは無くしてしまったとはいえ、このまま結婚するのかな、なんて思っていたのに。
全てが一瞬のうちに壊れてしまい、将来のビジョンを失ってしまった。
「本当に…帰りたくない……」
もう一度口にする。何もかも忘れてしまいたい気持ちでいっぱいだ。
「そうだ、少しお酒飲んじゃおう」
いつもなら彼が怒るのでそんなことはしないが…もういいだろう。そう自分に言い聞かせては歩き出した。
いつもなら通り過ぎる細い路地に何となく目をやると、オシャレなバーの看板が光っているのが目に入った。
(わ、バー……大人っぽくて入った事ないけど……いいな、素敵)
そう思うと、心が少し軽くなって、初めての冒険に胸が高鳴った。
幸いお給料も入った所だし、悲しい事があったのに1日頑張ったのだ。少しくらいの贅沢をする言い訳は揃っている。
はバーに続く細い階段を降りながら、自分にそう言い聞かせた。