第16章 おとぎのくにの 8
数日後、私たちは孤児院に向かう馬車の中にいた。
お忙しいはずなのにお兄さまが自ら日程を調整してくれてあっという間に決まったのだ。
こんなにすぐ行けるとは思っていなかったから驚いた。
正直ちょっとまだ心の準備が追いついていない。
「緊張するね…」
思わず呟いてしまったけれど、我ながら硬い声だと思う。
自分で行くと決めたのに情けない。
今さらやっぱり行かないと言うつもりはない。
孤児院に慣れているマサキが今日も一緒だし。
私もカズも子どもたちとは既に顔見知りになっている。また会えるのは純粋に嬉しい。
お義姉さまが何度も通われている場所だから安全面も問題ないだろうし、心配性のお兄さまが今日も大勢の護衛をつけてくれている。
何も心配することはない。
そう頭では分かっているのに、それでもどうしても緊張は消えてくれない。
「大丈夫ですか?」
「うん…」
私を気遣ってくれるカズも少し強ばった顔をしている。
カズもやっぱり緊張しているんだと思う。
膝に乗せた子どもたちへのお土産が入ったカゴを握る手にも力が入っているように見えて。
そっと手を伸ばしてカズの手に触れる。
緊張からか指先が冷たくなっていたから温めてあげたくなって。
そのまま手を掴んだら、カズはすぐに手の向きを変えて握り返してくれた。
緊張はまだ消えてくれないけれど、カズの手の温もりを感じて少し心が落ち着いた気がした。