第20章 卒業式
「帰ろうか」
「うん」
たぶん裏庭にはもう二度と来ることはないだろうけど、もう何も思い残すことはない。
翔ちゃんに手を引かれて、素直に裏庭から下駄箱へ向かう。
靴を履き替えようと下駄箱を開けたら、そこにもぎゅうぎゅうと大量の手紙が詰まっていて。
それを見た瞬間、がくりと肩が落ちた。
そう言えばここもある意味思い出の場所だったなって苦笑いしてしまう。
全然楽しい思い出じゃないから、思い出さないままで全然良かったんだけど。
でもこの現象もこれで本当に最後だと思うと、もうあまりこわくはなかった。
また翔ちゃんに手伝ってもらいながら中身をせっせと確認して。
いくつかポエムっぽいのはあったけど、大半は卒業を祝ったり別れを惜しんだりする普通の内容だったからホッとした。
「最後にこんなひと仕事が残ってるとは思わなかったね…」
「ははっ」
思わずぼやいたら、翔ちゃんは肯定も否定もしないで笑ってた。
もしかしたら翔ちゃんは予想してたのかもしれない。
増えてしまった荷物を抱えて玄関から出ると、ふと翔ちゃんが足を止めて振り返った。
何にもない昇降口を懐かしそうな顔で眺めてる。
俺には特に何の思い出もない場所だけど、きっと翔ちゃんには何かあるんだろう。
翔ちゃんは俺より3年長くここに通ってたんだもん。
俺の知らない思い出があるのも当然だ。
しばらく黙って付き合ってたけど。
今、翔ちゃんが何を思い出してるのか知りたくて。
翔ちゃんの思い出を俺にも分けてほしくて。
「翔ちゃん?ここにはどんな思い出があるの?」
そっと声を掛けてみたら、翔ちゃんは俺を見て照れくさそうにはにかんだ。
そんな恥ずかしいことなのかな?
聞いたら悪かった?
でも見る限り翔ちゃんは照れてるだけで、イヤがってそうな感じはしない。
だから何も言わずに待っててみたら、翔ちゃんは照れくさそうな顔のまま口を開いた。