第4章 甘美な檻
それは突然訪れる。
幾つかのパターンがあるが、特に辛いのはサラが反抗した時だ。
不機嫌に瞳が曇った時にはもう遅く、据わった目で見据えながら口元だけは美しく弧を描く。何度目かの「お仕置き」で学んだサラは、その表情を見るだけで全身の力が抜けて許しを乞うしかなくなる程度には、散々いたぶられてきた。
その結果、何とか彼を刺激しないよう出来るだけ大人しく暮らす事が身についてきてしまった。
それでも地雷を踏んでしまうのか、はたまた白石の気分次第なのか…毎日。日によっては幾度も抱かれ続けて、サラはすっかり白石の与える快楽に弱くなってしまった。
ぼんやりと思いに耽けるサラだったが、喉の乾きを覚えて我に返る。
(寝てる……珍しい、な…)
ちらりと隣で眠る白石を確認する。毎日彼に抱かれて気絶するように眠り、朝は彼のキスで目覚めさせられているサラが初めて見る寝顔。伏せられた長い睫毛も、微かに開いた薄い唇も全てが完璧に美しくて、見蕩れそう…だが。
(こ、これは……チャンス…?)
そっと静かにベッドを抜け出し、そっと可愛らしい下着を身につける。
ここに囚われて以来、毎日白石が選ぶこの店の下着のみで過ごすことを強要されているため、服はないのだ。
まだ、静かに寝息を立てる白石を確認するとサラは出来るだけ静かに寝室を抜け出した。
寝室から追ってくる気配はない。息をつめて店内に繋がる扉をそっと開いたサラの目に飛び込んできたのは、見慣れた風景。
白石が「魔法」を使わない時は、いつも薄ぼんやりとした乳色の靄に包まれているショーウィンドウの向こうが、見慣れた……自分の街だった。
(あ、…か、帰れる……!)
服は着ていないがどうでもいい。とにかくこの店から出られさえすれば、どうにだってなる。
白石が起き出してしまう前に行かなければ。
ゴクリと唾を飲み込む。心臓がうるさくて、店中に響くんじゃないかと思う程だ。音を立てないように扉に歩み寄った。
白石は来ない。
歓喜と緊張に震える指先がドアノブにかかり、そっと引く。
チリン、と微かなベルがなれば、弾けるようにサラはその向こうへと身を滑り込ませた。