• テキストサイズ

魔法の下着屋さん

第4章 甘美な檻


ふんわりと紅茶の香りがして、うっすらと目を開けた。
あちこち怠く軋む身体は柔らかなベッドに包み込まれている。
薄桃の可愛らしい天蓋が付いた、可愛く寝心地のいいベッド。いつまでも眠っていたい気持ちに駆られるがここは自室ではない。

初めてこの場所に囚われてから何日が過ぎただろうか。ランジェリーショップのバックヤードの扉を開けた先にあるこの部屋は、何もかもがサラの好みに設えられた寝室。
フレンチ風の可愛らしい家具で統一された白とピンクが基調の部屋は、何度見てもうっとりと溜息が漏れてしまう。
この部屋だけではない。浴室は憧れの猫足のバスタブで、甘い香りのする清潔なお湯が張られているし、サラが望めば薔薇の花びらが浮かんでいたり、泡風呂になったりと、いつでもサラを癒してくれる。
ダイニングルームには毎日色とりどりの花が飾られ、サラが望む食事が出てくるし、今だって目覚めの紅茶が用意されている筈だ。
………そして、隣で寝息を立てているこの男。白石蔵ノ介。
目を見張る程の恵まれた容姿に、気遣いも出来て、優しくて…まさに理想の王子様。
こんな人がもし学校や職場にいれば、皆好きになるだろうし、自分もなっていたと思う。

あれから幾日かを彼と過ごしてみて分かったことがある。
まず、彼は恐らく人間ではないし、この場所はサラの生きてきた世界とは次元か何かが違う場所らしい。
「サラのために作った夢のお城」だと、白石は言っていた。
正直理解の外だったが、自分の為に作られたと言われれば納得してしまう。それ程に居心地のいい場所だった。
寝室の本棚にはサラの好みの本が揃えられているし、趣味のものも望めば用意されていた。
そして、店のガラス張りのショーウィンドウの外。白石はサラの望むまま、様々な景色をそこに写し出した。
ヨーロッパの美しい街並み、夕暮の海辺、雨に濡れた森。まさにそれは魔法で、サラの毎日は意外にも平和で幸せだった。



白石が欲情さえ、していなければ。
/ 34ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp