第9章 現世編(後編)
横を通り抜けようとしたルキアの首に、浦原の中指がトン、と優しく触れる。途端に彼女は全身の力を抜かれてしまった様に膝から崩れ落ちた。口も開かず、声を出す事すら叶わない。
空の虚を全て処理し終えたゆうりは斬魄刀を鞘へ収め、浦原の隣へ降り立つ。何も出来ず、縋るような眼差しを向けるルキアにただ申し訳なさそうに眉を下げた。
「…縛道ね。ごめんなさい、ルキア。手伝うことは出来ないの。」
「その通り。この戦いは必要な戦いなんスよ。朽木サンにとっても、彼にとってもね。」
揃って顔を一護へ向ける。彼は大虚の足元まで走ると斬魄刀を振り上げ思い切り足首へ刃を立てた。しかし、彼の力では切り落すどころか半分も切れずほんの小さな傷が出来るだけだ。大虚は斬魄刀を突き立てられた片足を後ろへ引き、前に振ることで一護の身体ごと吹き飛ばした。
「う…わ…ッ!?」
「黒崎!!言わない事じゃない!!」
石田の隣まで蹴り飛ばされた一護の隣で彼は弓を構え、大虚へ向かい矢を放った。確実に命中はするものの、ダメージを受けた素振りすら見せない化け物に石田は眉を寄せ、倒れたままの一護へ駆け寄る。
「大丈夫か黒崎!!」
「おう…割と大丈夫だ…。」
「全く…何を考えてるんだ君は!?今のでどうやってアレを倒す気だったんだ!?」
「イヤ…足元から順に斬り飛ばしていけば最後に頭が落っこちて来るかなーと思ってよ…。」
「だるま落としか…。」
「それで倒せるなら王族特務なんて必要ないね…。」
「染谷さん!!キミならあの虚を倒せるんじゃないか!?」
2人の様子を見に現れたゆうりに石田は顔を上げた。しかし彼女は数度瞬きを繰り返し、そっと首を横に振り一護の傍へしゃがみ込むと額から血を流す彼の頭に治癒霊力を充てる。
「これは2人が引き起こした事でしょう?自分たちで何とかして貰わないと。」
「ぐッ……だけど、今この状況であのバケモノに勝てるのは…。」
「大丈夫だよ、一護の霊力は普通の死神よりよっぽど高いし、雨竜は頭が良いもの。2人が力を合わせれば勝てるよ。」
「力を合わせるって………ッ、な……!?なんだこれは…!?僕の弓が……」