第9章 現世編(後編)
「なんでお前が謝るんだ、もし責任が有るとすればあの時真咲をしっかり守れなかった俺だよ。それに今となっちゃこれで良かったとすら思ってる位だぜ!めんどくせえ仕事からは逃れられるし、可愛い愛娘も居るしよ!」
「幸せそうで何よりですよ全く…。」
思っていたよりもピンピンした様子で屈託のない笑顔を見せる一心にゆうりはガックリと肩を落とし項垂れた。よもや漸く会えた男が本当に死神の力を失っていただなんて。
「…一護は随分貴方の血を濃く受け継いだみたいですね。そんじょそこらの死神よりよっぽど霊力高いですよ。」
「だろうな、アイツがガキの中で1番死神とクインシーの血を色濃く引き継いじまったらしい。まぁ死神になんざなる事はねーだろうが…」
「死神とクインシーのハーフだなんて、藍染が喜んで飛び付きそうな案件ですけどね。」
「その通りだ。ま、今の所なんもねェし今まで通り普通の家族としてやってくさ。」
「…そうですか。…いや、それがいいのかもしれませんね。」
羨ましい。私も一心さんのように普通に家庭を持って、平穏に暮らしたい。少しでもそう思ってしまった自分が居る事に嫌気がさした。それを振り払う様に瞼を降ろすと椅子から立ち上がる。
「これからどうする気だ?」
「どうもこうも、変わりませんよ。藍染を止める為私は戦い続けます。全てが終わるまで。一心さん、次会う時はお酒でも飲みましょ。」
「…あんま無茶すんなよ。死神の事情に手は出せなくなっちまったが、お前の味方である事に変わりはねェからな。」
「ふふ、ありがとうございます。」
頭を下げクロサキ医院を後にする。そのままの足でスーパーに向かい、会計を終え鞄に手を入れた際エコバッグが無い事に気が付いた。しかしわざわざ取りに戻る気も起きず普通に袋に入れて浦原商店へ踵を返す。
ゆうりが買い物を終えて帰ると、そこには満面の笑顔で帰りを迎える男が居た。
「おかえりなさい!ゆうり、高校生活に憧れはありませんか?」
「ただいま…高校って、何?藪から棒に。」
「有りますよねぇ!そんなアナタにボクからプレゼントっス!」
「話聞いてる?」
浦原が背中に隠していたものを取り出しゆうりへ見せたのは高校の制服だった。どこの高校かは分からない。ついでに何故今更こんなものを渡されているのかも分からなかった。
