第7章 死神編【後編】
一方、白哉に連絡をしに行った山田は様子を見に行くと言い出した彼を連れてゆうりの眠る病室へと訪れた。普段ならば、自己管理能力が足りぬ、の一言で一蹴しそうな男がわざわざここへ来るなど思いもしていなかった山田は縮こまりながらも案内を務める。
「入るぞ。」
返事を聞く間も無く扉を開く。真っ白な部屋の中ではゆうりがただ一人静かな寝息を立てて眠っていた…かと思っていたがそれは違った。ベッド脇に彼女によく似た、やけに顔立ちの整った男が立っている。白く細い髪に黄色い瞳。薄い緑がかった着物。それはまさにゆうりの兄のようにも見えて白哉は些か目を見開いた。敵意が有るようには見えなかったので、刀に手を掛ける事は無い。
「…兄は、何者だ…?」
「…朽木隊長…?誰か居るんですか?」
隣から顔を覗かせた山田には見えないらしい。
彼はゆうりの頭を優しく撫でた後、白哉へ顔を向け唇に人差し指を宛てるとそのまま花のように散り消えた。
「…ゆうりの斬魄刀か…?」
真相は分からない。今、突如現れそして目の前から消えてしまった事だけが事実だ。白哉は室内に足を運び、備えられたままの椅子へ腰掛ける。
「朽木隊長、僕は別の仕事が有るので…失礼します…!」
ぺこりと頭を深々と下げた山田は足早に去って行く。白哉はゆうりの顔へ視線を落とした。山田の言う通り、点滴が効いてるのか呼吸は安定しているように見える。それでもまだ赤く汗ばんだ頬へ手の甲を滑らせた。
「…無理を強いたか。済まなかった。」
「ん……。」
ぴくりと瞼が揺らぐ。うっすらと覗く翡翠色の瞳と目が合った。ゆうりは頬を緩め笑い、再び目を閉じる。
「……白哉のせいじゃないよ。私が勝手に無理しただけだから気にしないで。来てくれてありがとう。」
「…眠いのだろう。無理をするな。寝て構わぬ。」
それだけ告げるとゆうりは小さく頷いた。
自分でも、どうかしてしまったのかと己を疑いたくなる。ただの一隊士を心配してここまで来るなんて。彼女はただの部下であり、かつての友人だ。それでも…他の部下以上に気を遣い、無意識に優遇してしまう。この感情は一体何なのか。彼女が病に伏せっただけで、まるで緋真が倒れた時と同じ様に強い不安を抱いてしまうのは何故なのか。