第62章 旅立ちの日〜最終章〜
「あーー、母上だけ抱っこずるいっ!」
吉法師が、私が抱き上げられているのに気がついて走って来た。
「よし来いっ」
信長様は私を片手で抱き上げたまま、吉法師も抱き上げた。
「きゃーーー父上すごーい」
吉法師は大はしゃぎだ。
「信長様っ、私だけでも降ろして下さい。重いでしょ?」
「幸せの重みだ。アヤ、貴様は俺に抱えきれぬ程の幸せを与えてくれた。そしてそれはまだ増えて行く。こんなに愉快な事はない」
「信長様.......」
「ふっ、そんな欲しそうな顔をしおって、吉法師、少しの間目をつぶっておれ」
「はいっ!」
吉法師は言われた通り目をつぶり、それを確認した信長様は、私たちを抱き抱えたまま、私に口づけた。
「.................んっ!」
子供の手前、軽いキスだと思っていたから、差し込まれた舌にあたふたした。
「ふっ、何年経っても上達せん奴だ」
唇を離し、私のおでこにおでこをくっつけて信長様は笑う。
「の、信長様がいつも急すぎるんです」
「......ならば、ゆっくりしてやる」
愉しげな顔が近づき、私も目を閉じた。
「..............父上まだですか?」
吉法師が待ちきれなくなって尋ねてきた。
「っ..........」
私はその声で慌てて顔を信長様から離した。
「いい子だ、もう少し瞑っておれ」
信長様はそう言うと私を腕から降ろし、私の頭の後ろに手を入れ引き寄せて、
「んっ........」
とびきり甘い口づけをくれた。